2009年5月8日金曜日

書評: まっとうな経済学

MITのオリエンテーションで、タイトルの本の原書"The Undercover Economist"をもらった。
Summer TermのコアのApplied EconomicsのPre-course宿題としてタダで配られた。移動中の飛行機などで少しページを繰ってみたが、数ページ長々と導入がありテンポが悪く瞼が重くなる。帰国後もそのまま放置していた。

宿題だし読んでおくかと思い、図書館で読み始めると、中々面白く引き込まれた。著者は、FTのエコノミストで、コーヒーの価格の裏事情等の経済事象を、ミクロ経済学の法則を当てはめてシャーロックホームズばりに推理していく。具体例が、Londonっ子らしさと世界中の国々での実体験を元にしているのと、イギリス人の独特の皮肉っぽさが出ている点が私の好みに合った。

他の人はどう読んでいるんだろう?と、ふとAmazonでこの本の評判を検索してみると、意外にも翻訳本が出ていることを発見。和書タイトルは、「まっとうな経済学」ランダムハウス講談社から。運よく、ライブラリに置いてあったので、原書を潔く諦め、和書で一気に読んだ。原書とタイトルが全然違うのは、ベストセラーになった「やばい経済学」の2匹目のどじょうを狙ったらしい。が、この本は、実用書や娯楽書の類でなく、まじめなミクロ経済の副読本である。

前半の1~5章は、基本概念の導入部分。需給価格均衡と、税やレント等による均衡移動、市場の失敗を解説する。需要・供給曲線を一切使わずに説明されているが、頭の中で曲線をイメージしないと分かりにくいのではないかな、と理系の私なんかは思う。まぁ、経済紙のコラムにそんなものは出せないか。キーワードだけでも、資源の希少性、限界選択、資源レント、効率性と公平性、外部性、情報の非対称性が登場する。後半の6~10章は、独立したトピックとして、ランダムウォーク、ゲーム理論、政府盗賊説、比較優位、グローバル化の罪、中国の市場原理の導入が取り上げられる。

私が一番面白く感じたのは、買い手個人の価格感度に合わせて、最も高く買わせる方法論だ。Whole foodsの食料品の陳列では、著者の観察によると実に色々な工夫があったらしい。値段に無頓着で目につくままにカゴに放り込んでいた私は、見事に高値に誘導されていたようだ。価格選択性の高い賢い顧客向けに、Whole foodsは、ばら売りの方が安い場合が在るとか、見えにくい棚に安売り品を用意しているなんて知らなかった。その場合、Safewayで買うのと大差ないらしく、「高級店で安い物を選んで買う」のが一番賢い買い方らしい。この他にも、買い手の支払い意欲価格に対するシグナルやそれを告白させる手法が、本全体に渡って色々な角度から紹介されている。今の仕事で活用できないかヒントになった。

また、7章のゲーム理論を用いた各国の周波数競売の実践例は、参加者の心理戦を事前に予測して入札ルールを決める点が、なかなか読み答えがあった。イギリスの成功事例では、真剣な参加者を増やすこと、参加者の入札価格を共有して入札対象の価値の信頼を上げる点がポイントと触れられた。ポーカーテーブルも似た傾向があって、直感的に理解できる。賭金のポットが大きくなるのは、まず勝ちたいという意欲が強いメンバが多く、集団心理で誰も下りない時だと思う。

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