2009年5月1日金曜日

書評: The Race for A New Game Machine

最近の読書について。4月の渡米時に、MIT Coopや街中の本屋で何冊か買って帰った。

- Andy Grove: The Life and Times of an American Business Icon
 Andy GrooveのIntel創業記。著者は、ハーバード教授でビジネス史専門。ハンガリー難民の無一文から世界最強企業のインテルを築くまでのアメリカ版太閤立志伝!?。

- Ahead of the Curve: Two Years at Harvard Business School
 アメリカ人ジャーナリストがHBS在籍の2年間を主観的にNon-fiction風に書いた本。アメリカ版岩瀬さんブログ!?。("Ahead of the Curve"は、MBAが好む統計分布曲線のはずれ値の優秀集団の意。)

この2冊はボストンに関係がある本。少しづつ読んでいるので、そのうち、書評を書きたいと思う。
また、6月からのコアコースのPre-cource Readingとして3冊の分厚いHardcoverと1冊のPaperbookが指定されているが、数ページめくってみたものの内容が面白くなく進まない。授業が始まるまでたぶん先送り。

さて、同じく持ち帰った「The Race for A New Game Machine - Creating the chips inside the Xbox 360 and the PLAYSTATION 3」は、テクノロジー色の強いビジネス書で、自分にはこれが一番面白く読めた。

この本の背景は、次世代ゲーム機のチップ開発。IBMは、Sonyの次世代ゲーム機PLAYSTATION 3のチップを、Sony, Toshibaと共同で2001年に開発開始する。2年後の2003年、MicrosoftがIBMの所に現れ、ライバルゲーム機XBox 360のチップ開発を要請する。SONY, Microsoftは、2005年クリスマスへ商品化先行を競い(Race)、異なったチップのコンセプトを持つが、IBMには、同時に複数のチップを開発するリソースがない。そこで、IBMは、SONYと共同開発したチップを、ライバルのMicrosoft向けに巧みに転用して、一石二鳥を成功させる。

著者は、IBMのアーキテクトである技術幹部。全体のトーンは、IBMの輝かしいプロセッサ開発の歴史や、部署間の政治的駆引きを背景としながら、IBM内の技術幹部同士の会話が情緒的に織り込まれている。また、表向きは、共同開発パートナのSony, Toshibaの日本人技術者と毎日席を並べて友情を交わしながら、裏では、彼らの宿敵Microsoftと巧みに通じる点が繰り返し取り上げられ、開発秘話とビジネス書的な教訓を展開している。

本が明示する教訓は、Work Hard. Play Hard, Stay positiveといった程度の小さいTipsだ。しかし、私を含め技術系マネージャにとって、もっと大きな観点で考えさせられることがこの本にはある。一つは、技術開発プロジェクトの大局的な戦略決定を担う技術幹部がそれぞれの立場で、仕様・リソース・スケジュールの日々の課題に、どういう視点やモチベーションを持ち、影響力を及ぼし合うか、口語的な会話を以って疑似体験できる。これも、米国型の誰が何を決めるか役割が比較的明確な組織だからこそ意味がある。日本型のコンセンサス重視の組織だと、本で断片的に読んでも各発言の影響が測りかねる。もう一つは、ゴシップ的な暴露話として読むとIBMのパートナ・顧客への不義理ぶりが目につくが、Ethicalな範囲内で組織防衛(雇用維持)という動機の下では、MicrosoftのDeep Pocket(金)に靡くのも同情・理解できる。日本が得意重視の商慣習を維持できるのは、日本人の美徳だけとも言えず、もしIBMの数々の事例のように雇用カットが突きつけられたら、古いお得意さんより金のある新しい客に靡かざるを得ない。IBMと同じく技術系マネージャが自身と組織の存亡をかけて積極的に売込みに出ることになる。

テクノロジーの本としても、マイクロプロセッサが好きな人には、面白く読める本だ。PLAYSTATION 3のCellチップを全ての家電に搭載する開発構想は、Tron以来の打倒Intelの可能性が語られ画期的だった。IBMのMicroelectronics Divisionが人材確保に苦労して、本流のAustinのServer部門の協力が得られず、ITブームでIBMを一度去った退職者を再雇用したり、Rochester (AS400等), Yorktown (Research), Raleigh他のIBMの叡智を集って分散開発した。プロジェクトの後、IBMのCorporate Ladderをさらに駆け上る人、AMDの幹部に転進する人もあり、著者はまたスモールビジネスに戻ることになる。

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