2010年2月27日土曜日

ボストン日本人研究者交流会(イノベーション)

ボストン近郊の日本人研究者が集う講演会を聞きに行った。毎回、色々な分野のテーマで専門外でも分かりやすく日本語で話を聞けるので、いい刺激になる。今日は、MBAの2年生の方が、日本の大企業がイノベーションのジレンマをどう克服するかをテーマに講演をされた。講演では、鉄鋼、半導体、テレビなど、かつて日本企業が優位だったが、新技術の到来とともにシェアを失った業界を事例にしており、身につまされる思いだ。クリステンセンの「イノベーションのジレンマ」では、そういった大企業の衰退は日本に限らず必然的なこととされ、その対策をアカデミックな先行研究や講演者の最新研究を含めて聞くことができた。
日本の大企業では、新技術の潜在的な脅威を調査し、また積極的に新技術の市場開拓を狙うため、公社系でかつて技術部と呼ばれメーカでも技術企画を担う部門には、10年選手くらいのトップガンエンジニアとMBAや海外研究機関の留学組の中核スタッフを充てる。この精鋭部隊が、既存事業から集めた豊富な資金を武器に、新しい事業部や新会社を作って、成功事例も少なくない。にもかかわらず、10年~30年という長い期間でみると、いずれ新しいプレーヤにシェアを奪われ衰退している。この理由には色々なパターンがある。一つの理由は、新技術の候補が多すぎて、それぞれの市場化タイミングはさらに予測困難だから。このため、後になって振り返ってはじめて、投資が早すぎて撤退してしまったとか、十分なリソースを投じるのが遅すぎたと気づくのである。また、大企業特有の官僚組織の硬直性や感情的な要素も一因。しかし、仮に、新興企業の方がうまくイノベーションの波をキャッチできるのが正しいとしても、技術革新をヘッジできるようなVC投資をするには、上記の予測困難性を考慮するとリスクが大きすぎて、本業の屋台骨を揺るがしかない資金規模を要し、現実的でない。
また、技術革新と並行して、バリューチェーンの中で利益が取れる部分が変わることがあるというお話があった。TVでも昔はセット屋が儲かっていたが、今はパネル屋が儲かっている。このような変化は、ファイブフォース的な競争環境を決める要因が技術依存であるためで、規模の経済性が大きい液晶パネル含む半導体製品や、外部性が高いソフトウェアに、自然と利益が集まりやすいようだ。しかし、こういった価値のシフトは、新技術の市場化タイミング以上にさらに予測が難しいし、意図的に誘導することはなお容易ではなさそうだ。Proprietaryな摺り合わせ型アーキテクチャに市場を誘導できたとしても、中国企業にいつの間にかモジュール型アーキテクチャに換骨奪胎される例もあれば、特許訴訟に敗北してProprietaryを失った結果として互換メーカの氾濫を許した例もある。ただ、逆説的にはなるが、神はサイコロをふらない、とは言えない困難さがあるからこそ、技術を見極める目とビジネスモデルを描く力量の両方が、個人と組織レベルに求められ、メーカのエンジニアとしての働く醍醐味でもある。

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