2009年3月25日水曜日

書評: 俺は、中小企業のおやじ

スズキの鈴木修社長の人生録ともいうべき本。生涯現役(しかも現場で)へのこだわりから、私が好きな日経新聞の「私の履歴書」の執筆を断り続けたが、結局、一冊の本にすることになったとのこと。昨今の経済危機を戦後・オイルショック以来の25年周期の危機ととらえ、自ら社長復帰を決めたそうだ。今年に入って、日本を代表する製造業の自動車・電機メーカのトップ交代が相次いでいるが、いずれも大政奉還型だ。スズキのような創業一家復帰から、伝統的にトップを輩出してきた部門からの社長登用が多く、経営危機には破壊的なリーダより腰を据えて取り組む保守的な権威が好まれるのは日本的な感覚なのだろうか。
この本で特に面白かったのは、GMとの提携やインド等の海外進出におけるトップの迅速なリーダシップの役割と、ものづくりへの徹底の面で、頷かされることがある。海外の集団訴訟問題での対処に、GMの法務部門とNYの腕利きの力をすぐに借りて解決できた例は、トップの初動の重要性に納得できる。米国陪審制による懲罰的な補償金には、私の身近な会社も悔しい煮え湯を飲まされている。知人の先輩が、MBA帰国後に、海外事業のリーガルに絡む問題解決のやっかいな仕事に回されて、法務の授業を選択しなくて後悔したと聞いた。米国の産業関連の国内法も勉強しておきたい。また、社長自ら現場での1円でも安くへのこだわりには、「トップダウンはコストダウン」なる名言もあり面白い。そして、経営危機に際しては、コストダウンは部品サプライヤを買い叩くのは絶対ダメ(好況にこれをやるのは良い)との考えには、本当に賞賛すべきことだと思う。産業ピラミッドの頂点に立つ自動車組み立てメーカとして、経験的な感覚から来ているのだろう。そこで、代わりに何をコストダウンするかというと、内部の無駄を徹底的に削減するべきとの考えだ。これを読んで思い出したのは、先日、TVのカンブリア宮殿で鈴木社長が出たときに、「カラーコピーを全部撤去した」と聞いたことだった。翌日、会社でその話が笑い話になったが、今思うと、緊急時のあり方として見習うべきはその実行力だと気づかされた。普通の大企業なら、いきなり撤去なんて社内の反発を抑えられず誰も決断できないだろう。

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